医療情報

房室中隔欠損症

胎生期の心内膜床の発育不全によって心臓の中心部構造である房室接合部(心房と心室の間の房室弁とここに近接する心房中隔・心室中隔)に生じる形態異常です。先天性心疾患の約3%にみられ、ダウン症候群や左右相同例に多く合併します.本症は共通房室弁口遺残や心内膜床欠損症とも呼ばれることもありますが現在では房室中隔欠損症という名称でほぼ統一されています。

房室中隔欠損症

房室中隔欠損症の循環動態

特徴として、

  • 1. 房室中隔の欠損(心房中隔下端の欠損口および流入部心室中隔の掘れ込み状欠損)
  • 2. 房室弁の形成異常
  • 3. 刺激伝導路の位置異常

などが最も特徴的です。この疾患には様々な移行型が存在しますが、不完全型、完全型に大別されます。

不完全型房室中隔欠損症

心房中隔下端に欠損口(一次孔欠損とよびます)を認め、房室弁はかろうじて不完全ながら2つに分離しているもの。左右2つに不完全に分かれた房室弁が心室中隔の頂上部に付着した結果、心室間交通(心室中隔欠損)を認めない。左側房室弁(いわゆる僧帽弁前尖)には裂隙が存在する。

完全型房室中隔欠損症

共通前後尖など計5尖からなる共通房室弁を認め、これが心室中隔上縁から上に浮いているため、大きな心室間交通(流入部心室中隔欠損)を有するもの。

完全型房室中隔欠損症では心室間交通(心室中隔欠損)心室間交通(心室中隔欠損)による左右短絡による肺血流の増加,肺動脈の上昇を引き起こします。このため次のような問題があります。

心不全

新生児期や乳児期早期より心不全症状(ミルク飲み不良 体重増加不良,多呼吸,陥没呼吸などの呼吸障害あるいは寝汗など)を呈することが多くみられます。

肺高血圧

肺への血圧の負担により肺内の細い血管に動脈硬化のような変化が起こることがあります。血管の硬化が進んでしまった肺高血圧は不可逆的で、チアノーゼがみられるようになります.(アイゼンメンンガー化と呼びます)心臓は手術をしても、肺病変による症状(呼吸障害、慢性右心不全による栄養障害、多臓器障害)が残ってしまうことがあり、肺高血圧のある患者さんには早期の手術をお勧めしています。

僧帽弁閉鎖不全

不完全型房室中隔欠損症ではこれらのような症状は一般的に軽度で心房中隔欠損症と同様の経過を示すことが多く左右短絡の大きさと合併する僧帽弁閉鎖不全(逆流)の程度で症状の重症度が変わります。

完全型と不完全型

房室中隔欠損症画像3

完全型房室中隔欠損症では乳児期早期から高度肺高血圧を認め、閉塞性肺血管病変による不可逆性肺高血圧症の進行が稀でなく、ことにダウン症候群ではその傾向がより顕著です。さらに高度左右短絡、房室弁逆流のため心不全、体重増加不良もよく認められます。したがってこれらの症例では体重や月齢によらずできるだけ遅れずに手術的修復の適応となります。6か月以降では閉塞性肺血管病変の進行により適応限界例も増えてくる傾向にあるので、一般的には乳児期3〜6か月が手術時期として理想と考えられます。

一方不完全型では完全型に比して予後は良好であるが本来自然治癒がないこと、Down症候群合併など二次孔型心房中隔欠損症より早期に肺高血圧うっ血性心不全合併が多く、また遠隔期房室弁逆流再発という観点からも比較的早期の修復術が必要です。一般的に手術時期は1-2歳幼児期が好ましいと考えられます。

治療法

本症の心内修復術は不完全型から完全型まで病型により異なりますが、原則として心房中隔一次孔欠損パッチ閉鎖、心室中隔欠損パッチ閉鎖、房室弁形成(共通房室弁の分割や弁形成術)を行います。手術術式については刺激伝導系損傷を回避し確実な欠損孔閉鎖を行うことが不可欠です。また遠隔期予後を左右する最も大きな要因は房室弁ことに僧帽弁閉鎖不全であるため確実な弁修復が本症の外科治療で最も重要です。

Two-patch method(人字型修復術)

我々の施設での手術術式は、

  • 1. 心室中隔欠損パッチ閉鎖(ゴアテックスパッチ)
  • 2. 心房中隔パッチ閉鎖(自己心膜パッチ)
  • 3. 共通房室弁形成(共通房室弁の分割と裂隙縫合)

近年本症の根治手術の成績は著明に向上し他に重篤な心血管系奇形を合併しない完全型心内膜床欠損症単独例では乳幼児例においても手術死亡率10%以下とされています。手術危険因子としては高度僧帽弁閉鎖不全、肺血管抵抗高値であり、低年齢そのものは危険因子とは考えられません。 我々の施設では根治手術を原則的に生後3ヶ月以内に行う方針としており、ダウン症の乳児を含め近年手術死亡遠隔死亡とも認めません.また大多数の例で術後肺動脈圧は正常化しております。

術後には次のような合併症がみられることがあり注意が必要です。

低心拍出量症候群

本症では適切な修復が行われれば術後心室容量負荷は軽減するため比較的安定した循環動態が期待されますが、術前高度心不全例では肺高血圧症遷延や僧帽弁逆流残存などの要因も加わり呼吸循環管理に難渋することも経験されます。

不整脈

刺激伝導系の走行が解明されるに従い、現在完全房室ブロックの発生はまれです。

肺高血圧症遷延/肺高血圧症クリーゼ

本症では乳幼児早期から高度肺血流増多による閉塞性肺血管病変が進行する傾向があり、手術が遅れると術後肺高血圧症の遷延や肺血管反応性れん縮による肺高血圧症クリーゼの発生が危惧されます。

遺残僧帽弁閉鎖不全

術後遠隔成績を左右する最大の因子は僧帽弁閉鎖不全です。高度な僧帽弁閉鎖不全に対しては再手術が必要です。